ナノ秒オーダーの遅い緩和、特にそのQ依存性を調べるため、典型的なイオン液体であるC2mimTFSIの中性子準弾性散乱測定を米国標準技術研究所(NIST)の高強度後方散乱装置(HFBS)を用いて行った。このデータを伸張指数関数(KWW関数)でフィットした(非指数関数パラメータβは0.5で固定)。高分子融体などで見られるように、高Q側では単純拡散に相当する-2の傾き、低Q側では-2/βの傾きで、0.6Å^<-1>付近でクロスオーバーが見られることが分かった。高分子融体ではこのクロスオーバーを空間的不均一のスケールと関係付けて議論することが多いが、イオン液体でも、この変化を前述のドメイン構造と関係付けて議論すべく、現在、微視的なモデルを構築している。 イオン液体C2mimTFSIを溶媒、PMMAを架橋高分子としたイオンゲルについても、遅い時間スケールの実験をHFBSを用いて行った。測定した試料のイオン液体モル分率x(IL)は0.1と0.27である。イオン液体または高分子網目の運動を独立にみるため、それぞれを重水素置換した試料(合計4種類)を用いた。x(IL)=0.1ではイオン液体は高分子に束縛されているため、イオン液体と高分子はほぼ同様の緩和時間、活性化エネルギーで運動していることが分かった。また、同様の解析の結果、x(IL)=0.27では高分子に束縛されたイオン液体とほぼ自由なイオン液体の2種類が存在することが明らかになった。以上の結果は、これまでの熱容量測定の結果(x(IL)=0.1では1ガラス転移、x(IL)=0.27では2ガラス転移)とよく対応しており、今後イオンゲルのイオン伝導機構を解明する上で、非常に重要な情報である。
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