研究課題
初年度は、イオン液体中の溶媒和を探る目的で有機ラジカルや三重項分子を対象にESR分光研究を行った。いくつかの対象種で有意義な情報が得られ、溶媒和機構や溶媒和した分子の回転運動の検討を開始した。またイオン液体中の部分構造を形成する可能性のあるクラスターについて、レーザー脱離法によるクラスターイオン観測を検討した。ベンゾフェノンは溶媒からの水素引き抜きでベンゾフェノンケチル(BPK)ラジカルが生成する。このBPKは明瞭なESRスペクトルを与え、超微細構造定数(hfcc)をもとにBPKに対する溶媒和を議論できる。イオン液体中で観測したBPKのFT-ESRスペクトルのシミュレーションからhfccを決定した。イオン液体中のアニオンがBPKのOH基に溶媒和し、その強さはアニオンの電子ドナー性で決まることがわかった。しかし、Cl^-のイオン液体では、BPK-Cl^-水素結合錯体に対するhfccからの推定構造と量子化学計算からの構造がOH基周辺で異なった。このような実験と計算の違いは分子性溶媒ではほとんど無く、Cl^-を含むイオン液体ではBPKに対する溶媒和にイオン液体に特徴的な機構が働いている可能性がある。イオン液体は粘性が極めて高いため、その中での分子回転は遅い。従って、三重項ESRが観測されると期待される。三重項はμ秒以上の長い寿命を持ち、かつESRスペクトルに現れる異方性の効果が回転運動と関係する。従ってイオン液体中の三重項のESR分光が、μ秒以上の遅い回転のプローブになると考えた。この観点から、時間分解ESR法でイオン液体中の三重項の観測を試みた。分子配向が観測時刻の500nsでもある程度保存することを示し、回転が極めて遅い可能性を示唆する。^<(3)>この他、三重項について数例の観測に成功し、イオン液体の溶媒和と分子回転の関係の考察を開始している。
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