研究概要 |
溶融塩中では2つの電子が一つのトラップサイトに補足された電子2量体が安定に存在することが知られている。溶融塩が作るイオン場により得られる静電引力が電子間のクーロン斥力を上回るために電子2量体は安定に存在できる。シミュレーションでも, その存在は予測されている。これらの事実から, イオン液体中でも電子2量体が存在する可能性がある。もし電子2量体が存在するならば, その光吸収バンドを励起することにより, 電子がトラプサイトから飛び出して, 以下の式のように2つの溶媒和電子を生成出来るのではないかと考えた。あるいは逆に, 光励起により溶媒和電子の生成が観測されるならば, 電子2量体が存在することの実験的事実となる。そこで, 2台のパルスレーザー(エキシマーレーザーとNd-YAG)をシンクロナイズさせた体系を組んで, 生成した溶媒和電子をさらに励起する実験を行った。予想に反して, 溶媒和電子を532nmあるいは1064nmのパルスで励起すると励起パルス幅内で減衰する永続的なブリーチングが観測された。観測波長を最長1400nmまで行ったが, ブリーチングのみが観測された。したがって, 少なくとも本実験の時間分解能で観測される時間領域では, そのような反応は生じていないといえる。しかしながら, 規格化したブリーチ量が観測波長に依存することが分かった。本来, 単一化学種(今の場合, 溶媒和電子)のみがブリーチされるのならば, 規格化したそのブリーチ量は, 波長に依存しないはずである。したがって, 一つの可能性はこれまでに観測された溶媒和電子の吸収スペクトルは, 溶媒和電子のみでなく, 何か別の化学種による吸収が重なっている可能性があることが, 示唆された。
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