研究概要 |
本年度は,以下の項目に着目した研究を進めた。1) イオン液体中に生成した溶媒和電子周囲の低温での溶媒和ダイナミクス,2) 2色レーザーパルスによる励起ラジカル種の拡散律速反応,3) シリル基を側鎖に持つイオン液体中での光誘起電子移動反応。まず,イオン液体P14-TFSAを用いて,溶媒和電子周囲の溶媒和ダイナミクスを,室温から-60℃までの温度範囲で過渡吸収実験により測定した。1000nmより長波長側では吸収信号は時間とともに減少するが,1000nmよりも短波長側では吸光度は時間とともに増大した。このような過渡吸収信号の波長依存性は,吸収スペクトルが時間的にブルーシフトするために生じる。つまり,光イオン化後の電子周囲の溶媒和の緩和を表している。その結果,溶媒緩和の時定数は,双極性プローブを用いて行なわれた結果とは異なる温度依存性を示すことを見出した。また,2色のダブルパルスレーザーを用いて,イオン液体中に生成したベンゾフェノンケチルラジカルを生成させ,このケチルラジカルを532nmレーザーパルスにより励起すると,四塩化炭素と反応することを見いだした。また,励起ケチルラジカルからの蛍光寿命と蛍光スペクトルの測定に成功した。蛍光スペクトルの寿命は5nsで,アセトニトリル中でのそれと近い値であった。一方,蛍光スペクトルのピークもアセトニトリル中での値に近かった。従って,ケチルラジカルはイオン液体Bmim-TFSAが作る極性の高いミクロドメイン付近に存在する可能性が高いことが示唆された。また,シリコンオイル中での光誘起電子移動反応が高い粘度にも関わらず速いという結果から,シリコンオイルの分子構造を側鎖に持つイオン液体を合成し,そのイオン液体中での電子移動反応速度を測定し,同じ粘度の分子性溶媒(グリセリン/アルコール混合物)と比較した。しかしながら,今回合成したイオン液体中では,側鎖に設けたシリル基の影響は見出せなかった。もう少し長いシリル基を側鎖に持つイオン液体を合成し,試す予定である。
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