研究概要 |
酵素は水溶媒中で化学反応を触媒するというのが生物学的な常識であり,実際に大抵の酵素は極性の低い有機溶媒中で失活してしまうために,反応媒体に関しては従来あまり関心が払われてこなかった.申請者らはポリオキシエチレン鎖を持つイオン液体で酵素をコーティングすると,水中でしか活性を発現しなかったアルカリプロテアーゼが有機溶媒中で使えるように改変できることを見いだし,酵素反応=水溶媒という常識を打破して,イオン液体という新しい溶媒システムを用いる酵素反応を展開し,イオン液体の機能を使う新しい酵素反応を実現しグリーンケミストリーに立脚した有機合成法を開発することを目的に研究を展開してきた.本年度は主に以下の(1)および(2)の成果を得た. (1)イオン液体コーティングによる酵素の活性化と反応制御 ポリオキシエチレンアルキル硫酸イオンを対アニオンとする新規イミダゾリウム塩を合成し,このイオン液体でコーティングを行ったリパーゼPSをジイソプロピルエーテル溶媒中で行ったところ,顕著な反応加速が実現し,基質によっては未処理酵素の1000倍以上の反応加速が実現した.従来,リパーゼ触媒反応に関しては,反応加速とエナンチオ選択性は相反する例がほとんどであったが,本イオン液体コーティングでは,エナンチオ選択性も変化しない.また,基質によっては向上することがわかった. (2)酵素反応に適した新規ホスホニウム塩イオン液体の開発 イオン液体についても分子設計を行い,新しいホスホニウム塩イオン液体を合成した.このイオン液体中ではGrignard試薬の反応も可能であり,しかも,従来合成されていたホスホニウム塩イオン液体を凌駕する反応性が得られることを明らかにした.さらに,このホスホニウム塩イオン液体中でリパーゼ触媒不斉アシル化反応を行ったところ,ジイソプロピルエーテルよりも反応が速いことがわかった. イオン液体中でリパーゼ触媒不斉アシル化が進行し,イオン液体という溶媒に酵素を固定化して再使用できることは申請者がすでに確立していたが,従来のジイソプロピルエーテル溶媒に較べると反応速度が低いという問題点があったが,今回開発したホスホニウム塩イオン液体を用いることで,イオン液体中でジイソプロピルエーテルを越える反応速度で酵素触媒反応を実現できたことになる.また,このイオン液体中で酵素を再使用することもでき,酵素反応に適したイオン液体の開発に成功した.
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