本年度は、生体の持つ嗅覚(化学刺激)に対して発現される行動の多形性について研究を行い、(1)非線形振動子を構成要素とするネットワークを用いたモデル化、(2)生体神経系を用いた行動出力系モデル化、について研究を行った。 前者において、非線形振動子は、外乱の存在下でも自身の持つ固有振動数で安定して振動を続けること、他の振動子との引き込み作用を用いることで、お互いの位相を一致させ調和的な振動系を構成できること、に大きな特徴がある。この引き込み作用を行う振動子間の関係をネットワークで表現すると、このネットワーク構造によって収束状態が左右される。本研究では、ネットワーク構造および固有振動数に代表される個々の振動子が持つパラメタに対する、振動子系全体の収束状況について、一定の条件下で明らかにした。この成果を用いて、異なる刺激入力に対する選択的な行動出力と、神経修飾物質による作用を回路網へのショートカット追加としたときの行動遷移を可能とする数理モデルを構築し、これをアナログ電子回路により実装した。これにより、提案モデルの回路によって制御される、単純な移動ロボットは、反射行動型ロボットとして旧来から知られているBreitenberg Vehicleの2つのタイプを僅かな回路網の変化で遷移することができ、行動の多形性を発揮できることを示した。 後者では、C01-01班の神崎ら(東京大学)との共同により、カイコガの神経系からの行動出力を直接電気的に計測した上で、行動出力を仮想的な身体によって表現し、その結果を触角へのフェロモン刺激としてフィードバックする系を構築した。この系を用いた実験により、本来の身体と全く異なる仮想身体を与えた場合でも、フェロモン源への定位行動が可能となり、典型的な行動要素を発現可能であることを示した。
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