研究概要 |
本研究では, 生物の持つ環境適応能力のうち、状況・経歴依存の行動選択課程について研究する。生物では、脳内神経回路などにおいて適応的行動を支える機能的なネットワーク構造の存在が予想されている。本計画研究では昆虫のフェロモン行動における神経生理学的知見と行動学的知見を踏まえて、相互作用ネットワークをモデル化し、その適応能発現メカニズムを明らかにすることを目指す. 平成20年度における主たる成果は以下の3点である。1. 昆虫微小脳と、とれによって直接制御される機械身体を持つ、完全自律型サイボーグ実験装置の構築に成功した。2. サイボーグ実験装置により, 昆虫神経系が発揮する適応能生成に係る機能構造について新たな知見を示した。具体的には以下の点である。(1)カイコガは胸部神経節を切除しロボット身体に置き換えても、適応能を発揮した。つまり、適応能は脳単体でも生じさせることができる。(2)身体から帰還する多くの神経接続を切除しロボット身体に置き換えても、適応能を発揮した。つまり、身体性の情報フィードバックは適応行動に必須ではない。(3)カイコガ成虫とロボット身体は駆動方法および大きさに隔たりがあるにもかかわらず、定位実験に成功した。つまり、カイコガ微小脳の持つ動作アルゴリズムは、身体サイズ等に対しても適応性を有している。3. 非線形振動子を用いた数理モデルにより、適応機能発現の根幹をなす長期応答生成のための機能的ネットワーク構造を明らかにした。以上、本研究では, フェロモン源への定位という問題に対して微小脳が発揮する適応能について、数理モデルによる解析とサイボーグ実験装置によるダイナミカルな応答計測によって複数の知見を得た。今後は両者を含め、他の脳活動計測結果と統合し、微小脳の適応能発現メカニズム解明を目指す。
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