研究概要 |
本研究は,筋骨格系の解剖学的情報に基づく身体力学モデルと,歩行の生理学データに基づく歩行神経系の数理モデルを構築し,それらを組み合わせてニホンザル二足・四足歩行の歩行生成シミュレーションを行うことにより,神経筋骨格構造の力学的相互作用の中から発現すると予想される動物の適応的歩行生成メカニズム(移動知)を構成論的に明らかにすることが目的である。 本年度は,まず,ニホンザル全身筋骨格モデルの構築を行った。具体的には,ニホンザル新鮮屍体を,X線CTを用いてスキャンし,その3次元体表面形状と骨形状を抽出した。そして,各関節面形状を二次曲面で近似し,骨座標系に対する二次曲面の向きから関節面座標系を,この座標軸から関節の回転軸を,二次曲面頂点の曲率から回転中心を決定した。こうして求めた関節面の形状情報に基づき,隣接する骨を関節させることによって,全身骨格を体幹部4節,前肢5節,後肢3節の計20節から成る直鎖リンク系として表現した。各節の剛体特性は,体表面形状を各関節の回転中心で分割して算出した。また,筋系の解剖学的に精密なモデル化のために,新鮮屍体の解剖を行い,特に四肢の筋について起始点,停止点,筋走行を確認するとともに,筋重量と平均筋線維長を計測した。現在,この身体力学系の運動方程式を導出し,そのダイナミクスを仮想空間内で再現するシミュレーションプログラムの開発を進めている。また本年は,神経生理学的知見に基づく歩行制御機構のモデル化についての基礎的検討も進めた。 さらに,歩行メカニズムの理解およびシミュレーション結果の評価に必要なニホンザル3次元歩行データ(関節角度変化,床反力など)の計測準備,およびシミュレーションより構成論的に抽出できると期待される動物の適応的歩行生成原理の実機検証を行うためのロボット製作を開始した。
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