研究概要 |
本年度は,前年に行った歩行制御機構についての基礎的検討を継続的に発展させ,特に脊髄レベルの数理モデルの構築を行った。具体的には,歩行周期に一致する周期を持った振動子(CPG)が各脚と体幹に対して存在し,その位相が脚と体幹のキネマティクス(脚軸の向きと長さ)をコードしていると仮定して神経系モデルを構築した。各脚と体幹のキネマティクスは,計測した運動データ(後述)を修正して与えた。振動子の位相は,接地のタイミングに基づいてリセットされ,支持脚相を開始するようにした。また四肢間の協調的な運動を実現するため,振動子の位相に適切な相互作用を仮定した。この神経モデルに基づいて,ニホンザルの筋骨格モデルの各関節に運動指令を与え,歩行の順動力学シミュレーションを試みた結果,まだ安定性など多くの問題がまだ残されているものの,ニホンザルの身体力学系,振動子により構成される神経力学系,環境系の相互作用により,歩行が実現できることが確認できた。 一方,歩行メカニズムの理解およびシミュレーション結果の評価のため,二足歩行訓練を受けたニホンザルを対象として,歩行時の3次元全身運動の計測を開始した。具体的には床反力計を埋め込み可能なトレッドミルを製作し,さらに複数台のハイスピードカメラを導入することにより,関節点に付着した標点の3次元運動と床反力の同時計測を行い,実際の分析を開始した。また,計測した3次元運動データに,構築した精密筋骨格モデルをマッチングしてやることにより,実計測が困難な骨格運動を推定する手法を開発した。これにより多数の筋や骨の状態変化,つまり筋骨格系全体の内部状態を推定することを可能とし,身体と環境が相互作用することによって織りなされる複雑な生体力学的現象を詳細に分析・理解することが可能となった。さらに,呼吸代謝測定装置を用いた歩行中の消費エネルギ計測の実験準備を進めた。
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