研究概要 |
本年度は,A.究極に単純化したシステム(受動的動歩行)における適応機構の解析ならびに多脚受動歩行への展開,B.究極に大自由度を想定したシステム(モジュラーロボット)の実時間形態変形制御と実機プロトタイプの製作を重点的に行った. ・受動的動歩行を用いた事例研究からは,受動歩行機械と環境との間に陰伏的なフィードバック構造(implicit feedback structure)が存在していることが明らかになっている。このことは,行動主体の振る舞い生成のために必要となる「計算」の一部を,機構系(身体)自体に何らかの形で埋め込む(委譲する)ことの重要性を示唆している. ・モジュラーロボットを用いた事例研究からは,制御系から機構系への振る舞い生成のための計算の委譲を,モジュール間の受動的・自発的着脱制御機構から生み出される身体の可変形性(deformability)という観点から議論している.可変形性の度合いは,現在進行中の行動主体の動きに対して自然かつ無理のない程度に持たせたときに適応的運動機能が最大化されるという興味深い知見が得られている. 本研究で行われた二つの事例研究から,制御系と機構系は対等の存在として扱い,振る舞い生成のために必要な計算の一部は制御系から機構系へと委譲する必要が明らかになった.これまでの議論を通して,移動知発現を数理的に考察するためには力学系が重要な言葉となることのコンセンサスが得られている。そこで次年度以降は,力学系に基づいて, ・制御系から機構系へとどのように計算の委譲を行うべきか. ・制御系と機構系に計算の委譲が適切に行われた状態はどのような力学系となっているのか. などを重点的に調べる予定である.
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