研究概要 |
本年度は胚性幹細胞(ES細胞)の分化に及ぼす力学的刺激(剪断応力)の効果について検討を行った。増殖因子VEGFの受容体であるFlk-1を発現するマウスES細胞に平行平板型の流れ負荷装置で剪断応力を24時間作用させたところ細胞増殖が促進された。この効果は流速ではなく剪断応力の強さに依存していた。血管内皮細胞のマーカー蛋白であるVEGF受容体のFlk-1とFlt-1,細胞間接着分子のPECAM-1とVE-cadherinの発現量をフローサイトメトリーで定量したところ、剪断応力にはこれらの蛋白の発現を増加させる効果のあることが確認された。一方、平滑筋細胞のマーカー蛋白であるSM-αアクチン、血球系のマーカーであるCD3、上皮系のマーカーであるケラチンの発現には影響が見られなかった。このことは剪断応力がFlk-1陽性細胞を内皮細胞へ分化を誘導することを示している。こうした剪断応力の効果はFlk-1の活性化を阻害するSU1498で消失したが、Flk-1のリガンドであるVEGFの抗体では消失しなかった。従って剪断応力の効果の機構としてリガンド非依存性にFlk-1が活性化されることが重要であると考えられた。また、剪断応力を受けたFlk-1陽性細胞はマトリジェルの足場のもとで管腔形成する能力が上昇していた。こうした剪断応力に対するES細胞の反応をハイブリット人工血管の作製に応用した。多孔性のポリマー・チューブ内面にFlk-1陽性細胞を播種し拍動性の剪断応力を2日間作用させたところ、内面にPECAM-1陽性の内皮細胞が、壁内にSM-αアクチン陽性の平滑筋細胞がアッセンブリーしているのが観察された。一方、静的な条件ではポリマー内面にのみ内皮細胞と平滑筋細胞が存在していた。生体の血管の構築により近い人工血管を作製する技術として力学的刺激が有用であると思われた。
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