研究課題
本特定領域研究では、非平衡開放条件の下、自発的に時間発展するモデル人工細胞系の構築を最大の目的としている。そのために、試験管内における細胞機能複合体の再構築、およびそのイメージング・ハンドリング・物理化学的測定を可能にする系の確立などの基盤的研究も並行させて行う。具体的には,ナノからセンチメータ・スケールの階層的操作技術を活用することによる「試験管内における染色体再構成」、「DNA高次構造変化に伴う転写・翻訳活性の制御」、「モデル細胞系を使った核酸及びタンパク質のダイナミクス」の研究を進めている。前年度に我々は油中水滴中でのアクチン重合反応の実施など、油中水滴を用いたモデル細胞系の研究成果を挙げている。本年度はそれら成果をさらに進展させ、油中水滴のマニピュレーション手法の確立や人工細胞モデル系としての有用性の証明を行うことができた。具体的な成果の一部を以下に示す。(1) レーザーピンセットで1つの油中水滴をトラップして他油中水滴に衝突させて、油中水滴同士を融合させるマニピュレーション手法を確立したと共に、油中水滴における膜融合の容易さを証明した。(2) 上記マニピュレーション手法を用いて「鋳型DNAを封入した油中水滴」と「無細胞転写・発現系を封入した油中水滴」とを融合させてタンパク発現を行うことに成功した。また、「カルセインを含む油中水滴」と「エステラーゼを含む油中水滴」との融合により酵素反応を進行させられることをも証明した。これらの結果は、本マニピュレーション手法を用いることで、in vitro生体反応の反応開始点を制御でき、また油中水滴中でスムーズにin vitro生体反応を進行させられることを示している。
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