研究概要 |
本研究ではRGS(Regulators of G protein signaling)蛋白質の作用様式・その調節因子を詳細かつ統合的に明らかにし、RGS蛋白質によるG蛋白質シグナルの生理的調節機構を統合的に解明することを目指している。心筋細胞のRGS蛋白質は、定常状態では細胞膜のリン脂質PI(3,4,5)P_3(PIP_3)によって機能が抑制されている。細胞内のカルシウム濃度を増加させる脱分極等の刺激は、カルシウム/カルモデュリン複合体(Ca^<2+>/CaM)の産生をもたらす。このCa^<2+>/CaMがPIP_3と競合的にRGS蛋白質と結合し、Ca^<2+>/CaM/RGS複合体が形成される。その結果、PIP_3を解離したRGS蛋白質はG蛋白質αサブユニットのGTP水解活性を促進する。このようなPIP_3によるRGS蛋白質の機能の抑制とCa^<2+>/CaMによる脱抑制が、RGS蛋白質活性制御即ち、生理的なG蛋白質シグナル制御に機能することを、我々は世界で先駆けて報告している。 脂質2重膜上に、脂質ラフトと呼ばれるコレステロールが集積した直径数百nm以下のマイクロドメインが存在する。この脂質ラフトには受容体、G蛋白質、イオンチャネル等の機能蛋白質のみならず、リン脂質PIP_3が集積する。本年度、我々はPIP_3とRGS蛋白質の相互作用の知見に基づき、生細胞におけるRGS蛋白質と脂質ラフトとの関係について検討した。蛍光蛋白質ECFPの蛍光波長は、Venusの励起波長と重なるため、両者が近接すると、ECFPを励起することにより、Venusの蛍光強度の増加が観察される(FRET(fluorescent resonance energy transfer))。そこで、ECFPとVenusをそれぞれCaMとRGS4に融合させ、これらの融合蛋白質をHEK293細胞に共発現させ、両者の結合を生細胞で観察した。その結果、両者を共発現した細胞からionomycinによるFRETのシグナルが検出されるが、CaMやPIP_3に結合できないRGS変異体ではシグナルが検出されなかった。そのため、両者が生細胞において特異的に結合していることが判った。さらに、脂質ラフトを壊すメチル-β-サイクロデキストリン処理や、RGS4のパルミチン酸化阻害変異体でもFRETのシグナルは検出されなかった。パルミチン酸化阻害変異体は、脂質ラフトに集積できないことから、パルミチン酸化がRGS4の脂質ラフトへの集積に重要であることが明らかとなった。
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