研究課題
アンジオテンシンII(Ang II)は心筋細胞の肥大を引き起こす生理活性物質である。Ang II受容体刺激による心肥大応答には、細胞内カルシウム濃度([Ca^<2+>]_i)の上昇を介した転写因子nuclear factor of activated T cells(NFAT)の核移行および転写活性化が重要な役割を果たしている。本年度は、ラット新生仔心室筋細胞を用いて、Ang II受容体刺激によるNFAT活性化に関わるCa^<2+>シグナル経路について検討した。新生仔心室筋細胞にAng II刺激を行うと、一過的な[Ca^<2+>]_i上昇とそれに続く持続的な[Ca^<2+>]_i上昇が確認された。このCa^<2+>応答は、ホスホリパーゼC阻害剤処置またはGα_qに対するRGSドメイン(GRK2-RGS)の発現により完全に抑制された。一過的[Ca^<2+>]_i上昇は、IP_3受容体選択的阻害剤Xestspongin Cによってほぼ完全に阻害された。持続的な[Ca^<2+>]_i上昇は、L型Ca^<2+>チャネル阻害剤(nitrendipine)または受容体活性化Ca^<2+>チャネル阻害剤(SKF96365)処置により抑制された。一方、Ang II受容体刺激によるNFATの核移行および転写活性化は、Xestspongin C処置により抑制されず、nitrendipineやSKF96365処置により抑制された。蛍光色素を用いたイメージングあるいは電気生理学的測定の結果、Ang II受容体刺激により脱分極が引き起こされること、またこの脱分極応答はジアシルグリセロール(DAG)リパーゼ阻害剤処置により増強することが明らかになった。脱分極応答は、SKF96365処置により有意に抑制されたこと、また受容体活性化Ca^<2+>チャネルの分子実体としてcanonical transient receptor potential(TRPC)チャネルが知られていることから、心筋細胞における各TRPCホモログの機能を調べた。その結果、DAG感受性TRPCチャネル(TRPC3/C6)が心筋でのNFATの核内移行、心肥大応答に関与していることが明らかとなった。これまで、G蛋白質共役型受容体刺激によるCa^<2+>シグナリングは、G_q-IP_3を介したCa^<2+>放出およびそれに続くCa^<2+>流入によって説明されてきた。しかし、本研究により、IP_3を介したシグナル経路よりもむしろDAG-TRPCを介したシグナル経路のほうが、NFATシグナル活性化および肥大応答に重要であることが明らかとなった。
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