研究課題
特定領域研究
G蛋白質シグナルネットワーク構築の観点から、心臓の機能制御について解析した。はじめに三量体G蛋白質のメンバーであるG_<α12/13>の機能を阻害するポリペプチド(p115RhoGEFのRGSドメイン:p115-RGS)を心筋細胞に発現させたトランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウス(p115-Tgマウス)に圧負荷をかけると心肥大は生じるものの、線維化は抑制された。これまで、線維化は心肥大に伴って生じると考えられてきた。しかし、本研究で作成したp115-Tgマウスの結果から、心肥大と線維化は独立して生じる現象であることが示された。p115-RGSは三量体G蛋白質のG_<α12/13>の機能を阻害すること、またほとんどの場合三量体G蛋白質はG蛋白質共役型受容体(GPCR)によって活性化されること、さらにp115-RGSは心筋細胞選択的に発現していることを考え合わせると、線維化のトリガーとなるGPCRが心筋細胞で圧負荷の際に活性化されていることを示唆していた。そこで、線維化のトリガーとなるGPCRの同定を試みた。in vivoでの圧負荷を模倣するin vitroの伸展刺激系を利用し、伸展刺激依存性にG_<α12/13>を活性化(実際はG_<α12/13>の下流に位置し、強い活性化が観察されるRhoの活性化を指標とした)するGPCRを探索した。インバースアゴニストを含むさまざまな拮抗薬の存在下に伸展刺激を行った。しかし、調べた拮抗薬のいずれもRhoの活性化を抑制しなかった。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は伸展刺激によるG_<αq>の活性化を抑制することが報告されている。しかし、伸展刺激によるG_<α12/13>の活性化は抑制しなかった。血管内皮細胞では、伸展刺激により細胞からATPが遊離し、イオンチャネル型のプリン受容体(P2X受容体)を活性化していることが報告されている。そこで、ATPが伸展刺激により遊離してくるのはないかと考え、ATPを消去するアピラーゼやヘキソキナーゼ存在下に伸展刺激を行った。この条件下では、Rhoの活性化は抑制された。したがって、伸展刺激によりATPおよびUDPが遊離し、P2Y_6というプリン受容体に属するGPCRを活性化し、G_<α12/13>続いてRhoの活性化を引き起こすというスキームが考えられた。実際、P2Y_6受容体に対する拮抗薬を用い、圧負荷により細胞外に遊離したATPおよびUDPがG_<α12/13>を介して線維化を制御していることを、P2Y_6に選択的な阻害剤を用いてin vitroおよびin vivoで明らかにした。心線維芽細胞を用いてアンジオテンシンII受容体タイプ1(AT1R)のシグナリングを解析する過程で、Gi蛋白質を修飾する百日咳毒素(Pertussis toxin : PTX)処理によりAT1Rを介した応答が増加することを見出した。この応答の増加はPTX処理によりAT1Rの発現量が増加によっていた。PTX処理するとリン脂質代謝が亢進し、低分子量G蛋白質Racの活性化を介して活性酸素の産生が増加すること、産生した活性酸素がNF-κBの活性化を介してAT1Rの発現上昇に関わっていた。マイクロアレイの結果、インターロイキン-1β(IL-1β)の発現が上昇していることが明らかになった。このIL-1βの上昇は、二相性を示したRacの活性化の二相目の活性化を仲介していた。すなわち、IL-1βをノックダウンすると、二相目のRac活性化のみが抑制され、AT1Rによる応答増加および発現上昇は阻害された。また、PTXはToll-like受容体4(TLR4)に結合し、細胞に応答を引き起こすことが示されている。PTXによるAT1Rの発現上昇もTLR4を介していた。しかし、PTXがGiをADP-リボシル化するために細胞内に移行する経路はTLR4ではなく、未知の受容体を介していた。すなわち、PTXはTLR4を含む少なくとも2つの受容体に結合し、TLR4はRacの活性化を介してAT1Rの発現上昇にかかわり、GiをADP-リボシル化するための細胞内移行はTLR4とは異なる受容体を介していることが示された。
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