自然環境で問題となるような低線量の紫外線、すなわち夏期の晴天時に浴びるほどの線量(0.2J/m2程度以下)を継続的に照射しながら酵母細胞を培養できる実験系を開発し、細胞の損傷応答機構について解析した。その結果、これまで最も重要であるとされてきた直接的修復機構であるヌクレオチド除去修復機構よりも、むしろDNA損傷が引き起こすDNA複製の進行阻害を回避する"DNA損傷トレランス"と呼ばれる機構、すなわちRad5-Rad6-Rad18経路が細胞の増殖にとって最も重要な役割を果たしていることを発見した。この経路は、2つの副経路(損傷乗り越え型と複製後修復 ; 特に後者はtemplate switch機構と密接に関わる)が関与することが知られているが、このうち複製後修復がこの継続的低線量紫外線照射における耐性獲得に重要な働きをしていた。このDNA損傷トレランス機構が働くために、低線量の紫外線があたったときには、急に細胞分裂を停止する事なく細胞周期を正常に進行させ、これと同時に、細胞はヌクレオチド修復や組換え修復といった直接的な修復機構を共役させていることを突き止めました。また、遺伝的変異でこの耐性機構が働かないときには、組み替え修復が細胞の生存に必須の働きをしていることも明らかにした。これらは大阪大学・菱田卓准教授、英国MRC研究所A.M.Carr博士との共同研究である。
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