イオンや低分子を運ぶトランスポーター、チャネルは生体の恒常性維持に重要である。これまでに多くのトランスポーター、チャネルが同定され、その個々の機能について詳細な知見が得られている。しかし、トランスポーター、チャネルの生理機能の全体を理解するためには、トランスポーターやチャネルと相互作用する分子全体を対象として、機能的な分子複合体(トランスポートソーム)を解析する必要がある。本研究では、トランスポートソームの中でも、とくに複数の蛋白相互作用モジュールをもつscaffold蛋白に焦点をあてている。平成20年度からは、EGF受容体やクロライドチャネルのscaffold蛋白として機能するMerlinから制御を受ける細胞死誘導的なシグナル伝達系の解析に着手している。平成20年度に、このシグナル伝達系の中核をなすキナーゼ自体がscaffold蛋白の機能を持つことを明らかにしたが、平成21年度には、RASSF6という分子がこのキナーゼに結合し、キナーゼのオリゴマー形成を阻害して活性化を抑制すること、RASSF6は強い細胞死誘導能をもつがキナーゼと複合体を形成しているときは細胞死を引き起こさないこと、このキナーゼに結合するhww45というもうひとつの分子はキナーゼが活性化するとより強固に結合するのに対して、RASSF6はキナーゼから乖離して細胞死を起こすことを明らかにした。この結果をもとに、キナーゼを活性化する刺激によって、キナーゼ自体を介する細胞死と同時にRASSF6による細胞死が起こるという新たなモデルを提示した。さらにRASSF6が腎臓尿細管上皮細胞における高浸透圧によって引き起こされる細胞死にも、このモデルがあてはまることを確認し、私たちの提示したモデルの普遍的妥当性を検証することに成功した。
|