本研究では、1分子観察法を駆使し、ラフトの形成とシグナル伝達の機構を解明することを目的とする。本研究では、特に、IgE-Fc受容体(1回膜貫通型蛋白質)のかかわるシグナル伝達機構を検討する。最終的には、ラフトが何故シグナル伝達に有用であり、何故、合目的的に働くのかという、分子複合体に共通なシグナル機構について理解することを目的とする。本研究の作業仮説は、「ラフトは可塑的で、状況に応じて違ったシグナル分子を集積して、経路間の切り替えやクロストークを起こす場として重要である」というものである。 本年度は以下のような研究をおこない、新しい知見を得た。 リガンドを加えて誘導されるIgE-Fc受容体ラフト(traveling raft)は、数秒おきに遅い単純拡散運動と運動停止の2つの時期を繰り返す。この時、運動が停止しているときに様々な信号を出すらしいことがわかりつつある。本年度は、この運動停止状態でのリガンド誘導ラフトとシグナル分子の相互作用を検討した。まず、固定細胞を免疫蛍光染色法を用いて染色し、共局在するシグナル分子をいくつか同定した。また、リガンド刺激後のシグナル分子の活性化も測定した。その中から特にLynとSykを選び、これらのシグナル分子を1分子追跡した。また、リガンド誘導ラフトとの同時観察をおこない、これらのシグナル分子が1分子共局在する様子を観察した。リガンド刺激するとすぐにリガンド誘導ラフトが形成され、その停止に、これらのキナーゼが必要であることがわかった。
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