本研究の目的は、「シグナル分子が働く場」として注目されている細胞膜中のラフトについて、その形成機構とシグナル変換における役割を、1分子追跡法を駆使して解明することを目的とすることである。本研究では、特に、CD59(補体第8成分の受容体で、GPIアンカー型タンパク質)、及び、IgE-Fc受容体(1回膜貫通型蛋白質)のかかわるシグナル伝達機構を検討する。最終的には、ラフトが何故シグナル伝達に有用であり、何故、合目的的に働くのかという、分子複合体に共通なシグナル機構について理解することを目的とする。 本年度は以下のような研究をおこない、新しい知見を得た。 CD59(補体第8成分の受容体で、GPIアンカー型タンパク質)、及び、IgE-Fc受容体を会合させると、リガンドを加えた時と同様の細胞内シグナルが誘導される。このとき、会合体部分にはコレステロールやガングリオシドが濃縮されるので、このような会合体を「受容体クラスターラフト」と名付けた。このような受容体クラスターラフトは、約2秒周期で、遅い単純拡散運動と運動停止の2つの時期を繰り返す。さらに、運動が停止しているときにPICガンマがクラスターラフトへとリクルートされることが見いだされた。運動停止とPLCガンマのリクルートは、ともにコレステロールとアクチン膜骨格に依存して起こった。他の多数の実験も合わせて、この停止部位こそが、IP3が生成される部位であることが明らかになった。
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