本年度は、IgE-Fc受容体のラフト依存的なシグナル変換機構について、以下を明らかにした。(1) IgE-Fc受容体にリガンドが結合して会合したとき、その会合体部位にコレステロールと糖脂質が会合してきた。一方、アクチン線維のないブレッブ膜を形成し温度を下げて秩序液晶相の領域を形成させ、IgE-Fc受容体が秩序相ドメインか無秩序相ドメインか、どちらに分配されるかも調べた。面白いことに、IgE-Fc受容体のほとんどは無秩序相に分配された。すなわち、IgE-Fc受容体が会合すると、コレステロールや糖脂質に対する親和性が劇的に上昇することが示された。しかし、IgE-Fc受容体の会合体から成長するラフトの大きさは、ほとんど、会合体サイズを超えなかった。我々が開発してきた、コレステロールと糖脂質分子の1分子追跡法を用いて、それらの分子のIgE-Fc受容体会合体部分での滞在時間を測定した。主要な滞在時間の成分は100ミリ秒程度であり、IgE-Fc受容体会合体が作るラフトでは、非常にダイナミックに脂質分子が出入りすることがわかってきた。(2) IgE-Fc受容体の会合体を核とするクラスターラフトに、下流シグナル分子のLynキナーゼ、さらに、それと拮抗し、かつ、細胞膜に存在するホスファターゼがリクルートされる様子を、1分子レベルで観察することに成功した。Lynのリクルートは、会合体形成が起こるとすぐに始まった。LynのIgE-Fc受容体会合体での滞在時間は、やはり100ミリ秒程度であった。これらの結果は、ラフトが働く機構を理解するための基本的な情報を提供するものである。
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