我々は、これまで、ケモカインCXCL12がBリンパ球の生成、発生過程における血球のホーミングに必須であることを明らかにし、骨髄内のBリンパ球前駆細胞や形質細胞に加え、多能性前駆細胞のニッチ(特別な微小環境)を構成する細胞の候補(CXCL12高発現細胞)を同定した。本研究では、造血臓器の細胞外環境の本態を明らかにするため、CXCL12高発現細胞の細胞外環境構成成分としての機能、これらの細胞が時間空間的な制御のもとに形成する機能的細胞外環境の分子基盤、その中におけるCXCL12の役割を解明することを目的としている。 はじめに、骨髄でCXCL12を高発現する細網細胞の他に、骨表面に局在する成熟骨芽細胞の一部に低発現する細胞を認めたので、CXCL12を高発現する細胞をCXCL12-abundant reticular(CAR)cellsと命名した。CAR細胞の成体骨髄におけるニッチ細胞としての機能を理解するため、インターフェロン反応性プロモーターの制御下でCre遺伝子を発現し、pIpC投与によりCXCR4遺伝子を欠損するマウスを作製し、成体骨髄におけるCXCL12-CXCR4シグナルの役割を解析した。骨髄のBリンパ球前駆細胞、Bリンパ球の細胞数は著減していたが、赤血球系細胞数は少し減少するにとどまっていた。興味深いことに造血幹細胞分画の細胞数は、著減しており、成体骨髄においてCXCL12-CXCR4シグナルは、静止期の造血幹細胞の維持、Bリンパ球の産生に必須であることが明らかとなった。免疫染色によると、骨髄のほぼすべての洞様毛細血管の周囲はCAR細胞に取り囲まれており、造血幹細胞を濃縮する細胞分画の細胞の大部分は洞様毛細血管の周囲、骨表面付近いずれにおいてもCAR細胞に接着していた。以上より、CAR細胞は、造血幹細胞とBリンパ球のニッチとして働いている可能性が示唆された。
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