ADAMファミリーに属するプロテアーゼは、膜型増殖因子の活性化を制御したり、シグナルに対する応答性をレセプターの分解によって遮断したりする働きを持つことがわかってきている。しかし、細胞間相互作用におけるこれらのプロテオリシスの役割は現在のところあいまいである。また、心臓形成におけるメルトリンβの役割や機能がわかりつつあるが、一方強い発現を示すにも関わらず、末梢神経における役割は不明である。そこでひとつのアプローチとして、メルトリンβノックアウトマウスのうち、数パーセント(ただし129・B6 mixed background)の個体が成体まで生きのびることから、これらのマウスを用いて坐骨神経損傷後の神経再生におけるメルトリンβの役割を検討した。その結果、メルトリンβノックアウトマウスでは神経組織の再生が遅れること、Wallerian変性や軸策伸長は正常に進行するが、ミエリン形成が遅れることを見出した。そこで、神経堤細胞由来のSchwann細胞の分化を、転写因子などのマーカー遺伝子の発現を指標に調べた。Schwann細胞のプロミエリン段階からミエリン形成段階への細胞分化にはプロミエリン段階を維持する0ct6の発現に引き続き、ミエリン形成に必須のKrox20の活性化を必要とする。ノックアウトマウスでは、Krox20の活性化と、それにともなう0ct6の発現抑制、ミエリン蛋白であるmyelin basic protein(MBP)やProtein0(P0)遺伝子の活性化が遅れることがわかった。また、ミエリン形成は、PI3K-AKT経路の活性化を必要とするが、この活性化がノックアウトマウスでは抑えられていることがわかった。以上のように神経再生においてメルトリンβは、PI3K-AKT経路の活性化制御を介して、Schwann細胞の分化を制御することが明らかになった(投稿中)。
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