研究概要 |
本研究では、細胞間相互作用におけるADAM(a disintegrin and metalloprotease)プロテアーゼの役割と機能に焦点をあてた研究を行ってきた。メルトリンβはこのADAMファミリーに属し、末梢神経系で強く発現する。我々は、これが神経筋接合部(NMJ)に局在し、その欠損マウスではNMJ形成異常を示すことを見出した。野生型とメルトリンβ欠損マウスのNMJにおける発現遺伝子の網羅的な比較により、GPIアンカー型膜タンパク質ephrin-A5の発現に顕著な差を認め、ephrin-A5欠損マウスのNMJでも同様の表現型を見出した。そのレセプターである膜型チロシンキナーゼEphA4は、メルトリンβと運動神経側で結合することもわかった。NMJ形成の前、ephrin-A5は神経・筋間の反発シグナルとして働く。この反発には、ephrin-A5-EphA4の結合による細胞同士の接触が、その複合体のエンドサイトーシスにより解除される機構が必須である。メルトリンβは、ephrin-A5-EphA4のエンドサイトーシスを著しく抑制する事が分かり、反発シグナルの抑制を介してメルトリンβがNMJの形成・安定化に関与することが示唆された。この研究は、NMJ形成機序に新たな知見を与え、重症筋無力症等の筋疾患発症機序の解明や治療にも新たな可能性を示した(Yumoto N. et al., PLoS ONE, 2008)。さらに、B6/129バックグラウンドのメルトリンβノックアウトマウスの中に生き延びるものがあることから、これらのマウスを用いて、メルトリンβが、末梢神経系の再生・Schwann細胞の分化に関与することを見出した(Wakatsuki S., et al., J. Biol Chem., 2009)。
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