研究概要 |
哺乳動物の大脳皮質及び小脳にはそれぞれ特徴的なレイヤー(層)構造があり,脳の正常な機能発現に極めて重要な役割をもつ。巨大分泌蛋白質リーリンはこのレイヤー構造形成に必須である。しかし現在に至るまで,リーリンの寿命や拡散制御のメカニズム,シグナル伝達機構の全容は明らかではなく,これらの現象の包括的理解には至っていない。リーリンのC末端領域(CTR)は塩基性アミノ酸に富む特徴的な構造を持っており,その成熟蛋白質における有無はalternative splicingによって決定される。CTRは従来,分泌に必須であると信じられてきたが,我々はCTRが分泌には直接必須ではないことを明らかにした。そして,CTRは細胞膜上にあるリーリン受容体とリーリンの間の相互作用を安定化させることを新規に見出した。以上の結果から,CTRはおそらく陰性荷電の細胞外基質に結合し,リーリンと受容体との結合(または拡散)を制御していることが示唆された。 リーリンには二種類の受容体が存在し,リーリンがいつ・どの細胞に受容されるのかについては現在なお決着していない。そこで,リーリンの受容体結合部位とアルカリフォスファターゼの融合蛋白質(APリーリン)を利用して,リーリン受容体の機能的発現部位同定を目指した。その結果,大脳では,脳室に近い層が強く染色され,表層側はほとんど染色されなかった。リーラー(リーリン欠損)マウスでは逆に,表層にいくほど濃い染色が観察された。さらに,リーラーマウスとほぼ同じレイヤー形成異常を呈するDab1欠損マウスの大脳皮質を染色したところ,むしろ野生型に近い染色像を示した。以上の結果から,リーリン受容体はリーリンに結合することでダウンレギュレーションを受けることを意味しており,リーリンの機能を考える上で極めて重要である。
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