21年度は、本班の実質的な活動のほとんどすべてを「東アジア海域史」研究会に振り向けた。以下の数度の会議や研究会によって、本研究会の最終目的である「東アジア海域史」に関する書物の出版にはほぼめどがついた。5月:北海道大学文学部で全体会議、6月:復旦大学(中国・上海)で「世界史中的東亜海域」国際会議、8月:石巻にて第三班の班別会議、10月:九州大学文学部で編集会議。また、22年3月には下津井で最終編集会議を開き、総論の内容と章立てについての確認、スタイルの決定や枚数調整など、各班の原稿の内容の最終的な確認をおこなった。 日本、朝鮮、中国という「国」を単位に理解され、叙述されてきたユーラシア東方の歴史を「海域」という概念を用いて見直し、新しい歴史解釈を示す書物は、22年度中には出版される予定である。 この本の特色は、以下の3点である。1.「海域」という概念の精緻化を図った。2.歴史を理解し叙述する際に、ほとんど無意識のうちに前提とされる時系列史にこだわらず、時間的に異なった3つの時期を取り上げて、それぞれの東アジア海域の特徴を歴史社会学的な方法をも用いて叙述しようとした。3.分野ごとの個人執筆とせず、執筆者集団が綿密な打ち合わせと相互批判を繰り返し行い、参加者からの情報を集積して、共同で研究成果の総体を分かりやすく示そうとした。 歴史学の実験場として「東アジア海域」という場を設定し、その過去を総合的に検討することによって従来の歴史学の方法や見方を刷新するというこの研究会の目的は、以上により十分に達成された。この研究会での活動を通じて、本班班員は、比較の視点から多くのアドバイスを行い、特定領域研究全体の中での本班の役割を果たした。また、各自の研究の中にその成果はフィードバックされた。
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