本年度の研究内容と成果は、以下のようにまとめられる。1、中国喫茶文化史研究の現状に関し、日中の基礎的な文献蒐集を行うと同時に、定期的な会合を通して、唐宋の詩文に見られる喫茶資料を整理、分析した。特に、主要な唐宋の茶詩については詳細な訳注を継続して作成しつつある。その成果の一部は、すでに「釈皎然の茶詩」として完成しており、茶の湯文化学会会報『茶の湯文化学』12号に掲載する予定である。釈皎然は、浙江の茶文化の基盤を築いた人物であり、その茶文化研究は今後の研究の出発点となる。また、高橋は、論文「中国喫茶文化と茶書の系譜」を作成したが、これは、中国茶文化史全体を概観し、宋代浙江の茶文化の位置づけを明確にする目的を持つ。2、五山文学関係では、定期的な会合を通して、中国茶文化の資料として重要なものを選定し、今後の研究計画をまとめた。本年度は無象照公の「夢遊天台偈」の訳注作成を開始し、来年度の完成と発表を目指している。3、中国の茶文化に関心を持つ研究者の交流を深めるため、宋代茶文化研究会を発足させた。第一回は平成18年3月10日に行われ、高橋が「宋代茶文化と絵画資料に関する諸問題」と題する発表を行い、最近の絵画資料を使用した研究の動向と問題点について論じ、愛媛大学の山口聰氏が「民族植物学から見た茶樹利用文化と日本への伝播」と題する発表を行った。茶文化研究に対し、歴史・文献研究にとどめず、広く学際的なアプローチを行うことを実践した試みである。4、国内と海外の研究者と交流を深め、宋代茶文化史研究のネットワークを築き、今後の研究の基盤とした。その成果の一つとして、浙江の研究者から会稽の日鋳茶についての情報を得たことがあげられる。日鋳茶は宋代の名茶の一つであるが、後世ほぼ消滅した状態になっている。今回日鋳茶の茶樹と遺跡の存在が確認されたので、来年度以降具体的な調査を計画している。
|