研究概要 |
本研究は,江南地方の住居や都市空間を対象に,構築環境のあり方やその意味を住居史学・環境心理学的視点から検討し,日本における場合と比較することによって,その比較文化論的考察を行うものである。 今年度は日本に関して,2005年9月に伝統的都市における空間の共同性のモデルとして,高田雁木町家(新潟県上越市)の現地調査を行なった。現在,そのデータを分析中だが,その際,単に文化財的な視点からではなく,私領域に属する雁木空間がどのように都市の構成要素として公共性を獲得しているかという点に着目して考察を進めている。 中国に関しては,2006年1月に現地に赴き,まず同済大学の阮儀三教授(都市史),李斌教授(環境心理学),張松教授(都市計画)らと研究打ち合わせを行なった。さらに,次年度以降の調査に向けて候補地の現地視察を行なった。具体的には,紹興近郊の「安昌」,寧波の旧城内の「月湖西側地区」および「南郊路」,寧波近郊の小都市「慈城鎮」および農村集落「走馬塘」などである。これらはいずれも革命以前の空間構造を残す地区であるが,それぞれの構成には属性の違いによる固有の特徴が見られた。 帰国後,予備調査の結果をもとに,今後の進め方についてのミーティングを行なった。そして,本調査の候補地として寧波の「月湖西側地区」を第一候補とするが,中国側研究者の意見を聞き,調査の可能性を検討しながら選択していくことになった。また,調査方法については,居住史学と環境心理学が対象を共有しながらそれぞれの方法論で調査を行い,それを素材に新たな比較文化論の提示に向けて議論をしていくことになった。さらに,寧波において急速な都市改変が起こっていること,しかもその手法が短期間のうちに様々に変更していることから,そのような都市改変の動向についても現在進行形の歴史としてテーマに加え,考察していくことになった。
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