研究概要 |
本研究は,中国江南地方の住居や都市空間を対象に,構築環境のあり方やその意味を住居史学・環境心理学的視点から検討し,日本における場合と比較することによって,その比較文化論的考察を行うものである。 今年度は,中国に関して,寧波の旧城内月湖西側に残る伝統的居住地区を共通のフィールドとして,現地調査を行った。住居史学的視点からは,地区内に残存する明代以降の各時代に建設された伝統的住居を対象に実測調査を行い,空間的・様式的特徴を解明するとともに,観察調査により居住者の生活領域形成を把握した。また,環境心理学的視点からは,居住者・通行人が行き交う中庭・路地などの外部空間においてビデオを用いた行動観察調査を実施した。現在,これらの調査によって得られた資料の分析を進めている。また,中国の各都市で急速に進行している再開発等の都市改変が,これら伝統的居住地区に対しても大きな影響を与えていることが明らかになった。そこで,現在進行形の都市改変のなかでの伝統的居住地区の空間的・社会的再構成プロセスについて,今後考察を深めることになった。また,次年度には,博多を対象に都市化プロセスの中での伝統的居住地区の再編成を調べ,比較考察を行うことにした。 一方,伝統的都市における空間の共同性のモデルとして,高田雁木町家(新潟県上越市)の現地調査を昨年に引き続き実施した。ここでは,私領域に属する雁木空間がどのように都市の構成要素として公共性を獲得しているかという点に着目して考察を進めている。 また,その比較対象として中国からは広州の連担型アーケード空間である騎楼を選定した。2007年1月に予備調査を実施し,次年度の本調査に向けて調査候補地の検討を行った。
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