研究概要 |
本研究は,中国の住居や都市空間を対象に,構築環境のあり方やその意味を住居史学・環境心理学的視点から検討し,日本における場合と比較することによって,その比較文化論的考察を行うものである。 前年度の寧波市での実地調査に引き続き,今年度は広州市において広州大学湯国華研究室との共同調査を行った。広州には,20世紀初頭に形成された「騎楼」とよばれるピロティ空間の連担によるアーケード街が現在も数多く存続している。調査においては,旧城西側に近代期に開発された恩寧路,第十甫路,上九路地区を対象に,騎楼建築街とその後背地に形成された低層住居密集地区に関して実測調査を行い,その形成過程と建築的特徴を把握するとともに,ヒアリング・観察調査等によりそれぞれの領域での居住実態を記録した。その結果,対象地区においては,騎楼街路と街区内部の居住地とが全く異なる構造で成り立っており,両者は空間的性格もかなり違っていること,当地区が計画性と自然発生的側面とを併せ持って形成されたこと,広州の騎楼建築においても寧波の伝統住宅に見られたような錯綜した多世帯居住がみられること等が明らかになった。 この広州の騎楼に類似した日本の都市空間モデルとして,高田(新潟県上越市)の雁木通りに注目し,その現地調査を昨年に引き続き実施した。ここでは,私領域に属する雁木空間がどのように都市の構成要素として公共性を獲得しているかという点に着目して考察を進めている。一方で,博多の伝統性を残す通りとして普賢堂を対象にその空間構造と変遷を調査し,日本の伝統的な通りのもつ「界隈性」について検討し,それを昨年度の寧波調査で得られた知見と比較,考察した。 また,昨年度の寧波に関する調査結果をまとめ,紀要「都市・建築学研究」に発表した。
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