研究概要 |
本研究は, 中国の住居や都市空間を対象に, 構築環境のあり方やその意味を居住史学・環境心理学的視点から検討し, 日本と比較することによって比較文化論的考察を行うものである。 今年度は, 江南の水郷都市・紹興を対象に, 水辺の居住環境に焦点をあてた現地調査を実施した(7〜8月に予備調査, 8〜9月に本調査。菊地, 南, 柴田が参加し, 浙江大学王暉副教授の協力を得た)。対象とした八字橋周辺は歴史的保存地区に指定され, 水辺環境も伝統的な姿をよく残している。伝統的構成を維持する水辺空間を実測し, 水路・橋・オープンスペース・路地・建物・中庭を連続的に捉え, 図面化した。水辺周辺の住居群の建物と生活の聞き取りからは, この地区の住居形態として中庭型と長屋型が抽出され, 居住者はこれまでの調査地にくらベれば長期にわたって居住している場合が多く, コミュニティも比較的安定していることがわかった。ただし, それらは必ずしも伝統的なものではなく, むしろ近代以降に再編され, 変化しながら今日に至っている。水際の生活景観の観察からは, 都市化によって水路の役割が変化したが, その状況に合わせた水利用のシステムが構築されていることがわかった。現在も水路は極めて有効に活用されており, それはこの地区の生活サイクルを形づくる上での基盤となっている。環境心理学的視点からは, 水辺空間を対象に長時間の定点観察を行い, その劇学的分析を試みた。そこでは水辺の生活場面が1日の流れとして記述されている。 また, 10月に「中国伝統都市の空間と場所」と題するシンポジウムを開催し, 寧波月湖西地区調査(平成18年度)の成果をもとに都市理解の視点を論じた。まず研究メンバー3名が調査にもとつく報告をし, 建築学および人類学分野からコメンテーターを呼びディスカッションを行った。
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