三年目にあたる19年度は、これまでの研究・調査をもとに論文や学会報告などの成果として公表し、また国際会議を主催し、他の研究者と交流を深めることに重点を置いた。具体的には、2008年3月に国際シンポジウム「東アジアにおける近代化と伝統医学の変容:環境変化とグローバル化の視点から」を大阪で開催し、台湾・韓国・アメリカ・ベルギーから医学史の気鋭の研究者を招き、研究交流を行った。生化学の最新の成果を参照したものや鍼灸の多様性を歴史的に探究したものなど、斬新な研究発表がなされた。総じて東アジアにおける伝統医学の歴史を長期的な視野から、環境や社会との関係から捉えることの重要性が確認された。 個別の研究としては、帆刈は、20世紀初頭における医学の近代化過程において、中医薬知識が一定程度の影響を有したことを当時の雑誌の分析を通して検討した。また、中医薬と地域との関わりについての調査研究を行った。飯島は、引き続き「感染症の流行と環境変化の関係」に関する研究を進め、継続して感染症の歴史データの整理を行った。また上海において現地調査を行い、台湾から研究者(鄭麗玲、欧素瑛)を招聘して関連の研究会を開催し、研究交流をはかった。東郷は、18年度に続いて中国の鍼灸分野の老中医達の臨床技術をビデオ記録し、その分析を行った。併せて、19世紀から20世紀に至る中医臨床技術の伝承のあり方について一部分析を行った。そして、スウェーデンにおける中国医学関連文献について前年度に引き続き、資料蒐集と分析を行った。
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