研究概要 |
フシナシミドロ(Vaucheria)で単離した2個のbZIP-LOV蛋白質は,この多核細胞の青色光照射域に新しい枝が誘導される光形態形成反応の光受容体であった.他に2-3個のLOV蛋白質を得ているので,さらに新奇の青色光受容体が見つかるかも知れない.今回全長の塩基配列を決定した光受容体をVaucheriochrome 1と2(VC1,VC2)と名付けデータベースに登録した(未公開中).VC1,VC2は互いによく似ており,1個のbZIP(塩基性領域ロイシンジッパー)と,その後方(3'側)にLOVドメインを1個もった,それぞれ348,343個のアミノ酸でできたタンパク質で,VC2には111個のアミノ酸を欠くスプライシングバリアントがある.これらをタマネギで発現させると核に移行すること,VC1はDNAのTGACGT配列と結合する(香川大の清末との共同研究)ことから,転写因子として働く光受容体であろうと予測された.VCのオルソログらしい配列が2004年に公開されたケイ藻Thalassinosira pseudonanaのゲノム中に見られる.VCが広く黄色植物共通の青色光受容体である可能性を検討中である. RNAiが長期間持続することが分かったので,VC1,VC2の機能解析が可能となった.両タンパクをコードするmRNAの相補鎖をin vitroで合成して,2本鎖RNA(dsRNA)を作り,それを混合して約1cmのフシナシミドロ断片に注射した.d sRNAは多核細胞全体に行き渡り,約1週間後に再生した(原形質の連続した)枝は異常な先端成長を示した.6か月後,青色光照射域からの枝発生(光形態形成)が抑えられた細胞からはmRNAが検出されなかった.次いで,VC1,VC2を別個に破壊したところ,興味深いことに,VC2を破壊された断片から生殖器官が頻出した.それらはやがて枝に戻ったが,このことはVC2は細胞から発生した突起が枝として発達するよう,生殖器官になる経路を遮断するスイッチであることを示唆する.両者がダイマーとして転写制御をする可能性を含め,両者の相互関係を探っている.
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