本研究はイネを主要な材料にして光運動のシグナル伝達機構を明らかにすることを目的に計画された。本年度はイネを材料にして次の研究成果を得た。(1)葉緑体の光定位運動を解析する方法を検討し、PHOT1遺伝子(PHOT1a、b)欠損の2重突然変異体およびRNAi形質転換体を用いて、phot1はイネにおいても、シロイヌナズナ同様、葉緑体光定位運動の光受容体であることを証明した。(2)昨年度までの研究でcpt2突然変異体(幼葉鞘の光屈性が特異的に低下した突然変異体)の原因遺伝子候補を絞り込んだが、本年度は相補性検定のための形質転換体を作出した。(3)前年度、lazy1突然変異体(重力屈性が低下した突然変異体)を利用して、パルス光依存光屈性を含めた光屈性の光量反応曲線を解析する方法を確立した。本年度は、lazy1とphot1a/b2重突然変異体を掛け合わせて作出した3重突然変異体、およびlazy1とcpt1だ突然変異体を掛け合わせて作出した2重突然変異体を用いて、光量反応曲線で分離される全ての反応(3つのピークからなるパルス光依存光屈性、および照射時間依存光屈性)はphot1/CPT1光受容系に依存することを証明した。本年度は、光量反応曲線で分離される光屈性反応成分と光受容体およびシグナル伝達因子との関係を分子遺伝学的にさらに詳細に解析するため、シロイヌナズナ胚軸の光屈性の光反応曲線を解析する方法を検討し、確立した。この方法を用いて、パルス光依存光屈性と照射時間光屈性の詳細な光量反応曲線を求めた。現在、シロイヌナズナの各種突然変異体(phot1、phot2、phot1/2、nph3など)を用いて、光受容体・シグナル伝達因子と反応成分の関係を解析している。
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