研究概要 |
分子雲に存在するアモルファス氷星間塵上における分子進化の研究は, 太陽系の起源を研究する上でも極めて重要である. アモルファス氷星間塵は10K程度の極低温であるため, 熱的な化学反応は極めて起こりにくく, そこでの分子進化プロセスには不明な点が多い. 私たちは分子進化プロセスとして極低温特有のトンネル反応に着目し, (1)始原的有機分子であるホルムアルデヒド(H2CO)やメタノール(CH3OH)は極低温アモルファス氷表面におけるCO分子と水素原子のトンネル反応により効率よく生成されること, (2)アモルファス氷表面は触媒的な働きを持つことを明らかにした. 本研究計画では, CO分子-水素原子トンネル表面反応における反応速度定数を測定することにより, アモルファスH2O氷の触媒効果を定量的に評価する. 4年目である平成20年度は, 以下の研究を行った. ・ 昨年度までに立ち上げたパルス原子源, および原子脱離用レーザー-波長可変色素レーザーイオン化-飛行時間型質量分析システムを用いて, 水素原子のアモルファス氷表面への吸着量の温度依存性の測定を行った. その結果, アモルファス氷表面への水素原子の吸着量は, 8Kで最大で, 温度上昇とともに急激に減少することが示された. また, 一定温度での吸着量の時間変化も観測された. 現在, 実験データの解析中であり, 水素原子の付着率およびその温度依存性, 水素原子の表面拡散に関する情報が得られることが期待される. ・ 酸素分子に水素原子を照射して水分子が生成される過程(O2+2H→H2O2, H2O2+H→H2O+OH, OH+H→H2O)を, より分子雲に近い条件で実験的に再現した. その結果, 生成される氷の構造はアモルファスであることが明らかになり, 観測とよい一致を示した. また, この反応においても, アモルファス氷が触媒的な役割を果たしていることが明らかになった.
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