研究概要 |
高等植物は,発生の過程や感染防御の過程で一部の細胞を死に至らせる能力を備えている.この植物の細胞死のシステムは動物のシステムとは大きく異なる.本研究では,VPEを鍵酵素とする細胞死の分子機構を明らかにすることを目的としている.昨年度までに,VPEを中心とする液胞プロセシング系が病原体の感染による細胞死,感染に対する抵抗のための過敏感細胞死,および胚発生の過程にみられる内珠皮の細胞死に関与していることを示した.今年度は,シロイヌナズナの変異体の解析から,KAM2が病原細菌による過敏感細胞死に関与していることを見いだした(未発表).KAM2はエンドソーム形成や液胞への選別輸送に関与する因子である(Plant Cell,2007).この結果から,病原細菌の感染による過敏感細胞死に細胞内膜系が関与しているという視点が浮上してきた.一方,発生の過程における細胞死としては,胚発生の過程の内珠皮の細胞死に注目して解析を行い,δVPEと結合して働く因子TR5を同定するとともに,この複合体の動態を電子顕微鏡で観察した(論文準備中).液胞主導型の細胞死の鍵となる液胞プロセシング系を構成する因子の同定を正遺伝学的に行うための実験系を確立した.これまでの解析から,シロイヌナズナの4種類のVPEの内,病原体の感染による細胞死に主に関与していることが明らかとなったγVPEに注目した.γVPEのプロモータにルシフェラーゼ遺伝子をつないだものを導入し,この形質転換体を変異源処理したもの中からVPEの発現異常を示す変異体の選抜を開始している.
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