本年度は、1)SNAPタグで蛍光標識したダイニンモータードメインのヘテロダイマーを用い、1分子TIRF計測によって、片足を完全に不活性化してATP存在下でも微小管(MT)から離れないようししたモータードメインダイマーでも野生型のほぼ三分の一の速度でMT上をプロセシブに滑り運動することを発見した.死んだ足にQDを結合させてTIRF計測したところ、16nmでステップしていることが明らかとなった.これは、ダイニンダイマーのプロセシブ歩行機構を考えるうえで重要である. 2)Cys-lightダイニンを2種類の蛍光色素で標識したへテロダイマーを用いて、ダイマーサプユニット間の距離をFRET法で測ったところ、MTに結合していない遊離状態でも、ダイマーのふたつのリングの距離が近かった.この距離は、ダイマーをつないでいるリンカーとGST間に30アミノ酸からなる極めて柔軟なペプチドを挿入しても、ほとんど変わらなかった.つまり、遊離状態でもダイマーのふたつのリングはほとんど重なっていることを示唆している.この事実もダイマーのプロセシブ歩行機構の理解にとって重要である. 3)クライオ電子顕微鏡法で、380kDaモータードメインの像が見え始めた.リンカーはAAAリングを横切るように走っており、これはこれまでの負染色像と一致している.C末端の大きな非AAAドメインはリングの一部ではなく、リングの裏打ちをしており、リンカーとは逆の面に結合していると解釈できる. 4)ダイニンモータードメインの結晶化は進行中で、進歩があった.しかし、380kDaという大きさとその特異な形態(リング構造から、柔軟な長い構造がふたつ突き出ている)のため、最終目的に達するにはまだまだ時間がかかる.
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