本年度は、モータードメイン2量体中のふをつのAAAリング間の相互作用を調べることに焦点をてた.このため、まずモータードメインの微小管結合部位のk3387をアラニン残基に置き換えた変異モータードメインを作成した.このK3387A変異体は、微小管がないとまったく野生型と変わりないが、微小管とはヌクレオチドの有無にかかわらず結合しない.微小管と結合できないK3387A変異モータードメイン(K3387A)と野生型モータードメイン(WT)を、我々が開発したヘテロダイマータグで2量体化する.このK3387A/WT2量体をADP存在下で微小管に結合させ、ストップトフロー装置でATPと高速混合する、混合後のK3387A/WT2量体・微小管複合体の解離を濁度変化で追うと、見かけ上一次反応で近似できる.この見かけ上の反応速度はほぼ20/sであった.この速度は最初のADP濃度を2mMから0.1mMまで下げても変わらなかった.ところがまったくADPを除くと、速度は100/sまで上昇した.一方、単頭のモータードメインでは解離速度は200/sであったこれらの実験結果は、K3387A/WTヘテロ2量体では、片足(K3387A)が微小管に結合していないにもかかわらず、微小管に結合した足(WT)はK3387Aの存在を認識しており、その結果、ATP加水分解の律速段階が単頭モータードメインのリン酸放出(~200/s)からADP放出(~20/s)に変わることを意味している.つまり、微小管上では2量体の各モータードメインのATP加水分解は強く相互作用しており、単独でいるときに比べて大きく変化したキネティックスを示す.このような相互作用は、ミオシンやキネシンで見られるような、微小管上での「力を介した」ものではなく、むしろモータードメインのAAAリング間の直接の接触を介している.ダイニンが長距離にわたって微小管上を二束歩行するには、ADP放出が律速段階で、かつ他の反応ステップに比べて極めて遅いことが求められるが、モータードメイン2量体形成で自律的におこるこのATP加水分解反応ステップの変化は、これを保障している.
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