研究概要 |
脊椎動物の初期胚における大規模な細胞分化・形態形成過程である神経系原基(神経板)の形成は、転写制御因子遺伝子Sox2の発現を伴う。その過程におけるSox2遺伝子の制御を分析することによって神経系成立の基盤となる機構を、本研究によって明らかにする。特に神経板形成期に作用する4つのSox2遺伝子のエンハンサーN-1,N-2,N-3,N-4の研究を中心において研究する。 エンハンサーN-2はマウス胚の胚盤葉上層から神経板前部にかけてのSox2遺伝子の活性化を担うことを確認した:エンハンサーN-2ノックアウトマウスでは、それらの組織に限ってSox2の発現の活性化がおきない。エンハンサーN-2の活性化に関与する制御エレメント群の中には、POU結合配列とOTX結合配列が見出された。各発生ステージでのPOU因子(Oct3/4)、OTX因子(Otx2)のN-2活性化への関与を分析した結果、胚盤葉上層では、このエンハンサーの活性がOct3/4に強く依存するのに対して、神経板前部では、N-2エンハンサーはOct2依存的に活性化されるようになった。この主要な転写制御因子の切換えが、胚盤葉上層から神経板への発生の進行と対応している。 中胚葉原基から神経管を生ずるWnt3a、T(Brachyury)、およびTbx6遺伝子の欠損マウス胚において、Sox2が異所的に発現されることを見出した。これがエンハンサーN-1の活性化によるものである可能性を検討している。エンハンサーN-1ノックアウトマウス胚では、神経板後端でのSox2の活性化が起きていなかった。この胚での中胚葉組織の産出を解析中である。 エンハンサーN-4のノックアウトマウスは小眼であった。初期胚の頭部外胚葉におけるSox2発現の低下が、正常よりも小さな水晶体を発生させて、それが小眼の発生の起源であると考えられる。
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