研究概要 |
我々はアンドロゲン受容体(AR)ノックアウトオスマウス(AR(L-/Y))はエネルギー代謝の低下により晩発性肥満をきたすことを報告した(Diabetes 54,1000-8,2005)。この研究成果を背景に本研究ではARの肥満における中枢性関与とその機序を解明することをめざす。脂肪由来ホルモンのレプチンは摂食とエネルギー代謝の主要調節因子として働くが、AR(L-/Y))では、レプチンの血中濃度は増加しているにも関わらず摂食量は正常であったことから、レプチン抵抗性が存在する。本年度研究において我々はまず、成獣オスマウスの視床下部におけるAR発現を免疫組織染色にて検討した結果、ARは視床下部のArcuate Nucleus (ARC), dorsomedial nucleus (DMH), ventromedial nucleus (VMH), suprachiasmatic nuclei (SCN) and premammillary nucleus (PMV)の諸核に強い発現を認めた。この発現パターンはレプチンのそれと重複しており、レプチン支配下の中枢性エネルギー調節機構にARが関与する可能性が示唆された。一方、メスマウス視床下部諸核におけるARの発現は痕跡程度であり、正常の代謝表現型を示したARノックアウトメスマウスの臨床型を反映していると考えられた。次にARのリガンドであるdihydrotestosterone (DHT)の脳室内投与はオスマウスの食欲を一過性に抑制したことから中枢性アンドロゲンは食欲抑制性に作用すると考えられた。さらに睾丸摘出による内因性アンドロゲンの供給遮断により、レプチンの脳室内投与による食餌摂取抑制効果と体重減少効果の減少を認め、アンドロゲン-AR系の中枢性レプチンシグナルへのin vivoでの関与が明らかとなった。我々はさらにARのレプチンシグナルへの関与に関して、in vitroにおける基礎的検討も開始した。レプチンはレプチン受容体に結合し、STAT3のY705をリン酸化することによりその主要な生物作用を発揮する。興味深いことにARはDHT濃度依存性にレプチン-リン酸化STAT3の特異的標的遺伝子であるAcute Phase responsive element (APRE)の転写を促進した。また、ARはレプチン誘導性のSTAT3の転写活性化も増強した。レプチンシグナルにはSTAT3Y705リン酸化を介した経路やERK, PI3-Kinase、AMPKを介した経路も存在することから、現在、これらの経路へのアンドロゲン-ARの関与の有無も検討中である。なお、他の検討課題として、我々は脂肪分化過程におけるARの発現上昇を見出しておりその機序や意義に関する研究やARKOとApoEKOマウスとの交配による動脈硬化研究が進行中である。
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