研究概要 |
本研究の目的は,視覚と体性感覚(触覚・自己受容感覚)により3次元物体を認識するダイナミックな脳のメカニズムを心理物理実験とfMRIによる脳活動計測を用いて明らかにすることにある.本研究では,3次元の仮想物体と実成形物体を用いた,異種感覚統合の新しい実験手法を開発し,視覚と体性感覚の協調・競合機構を明らかにする心理物理実験,および視覚と触覚による3次元物体の学習とイメージ想起に関わる脳部位を明らかにする脳活動計測を行なった. 視覚と体性感覚の協調・競合メカニズムに関しては,視覚-力覚提示装置を用いて多義図形の3次元解釈における視覚と触覚の相互作用を明らかにする心理物理実験を行い,触覚が物体の見え方に影響を与えることを示すとともに,視覚と触覚による立体形状推定には両眼視差が重要な役割を果たすことを明らかにした.また,立体映像と力覚,接触音とリアルタイムで合成する手法を提案し,異種感覚を統合提示する多感覚インタラクションシステムを構築した. 物体認知のfMRI脳活動計測に関しては,3次元プリンタにより成型した実物体を用いて,触覚による3次元物体の学習,トップダウン判断(形状イメージ想起)等の課題を行なわせ,各課題遂行時の脳活動を計測した結果,触覚による3次元物体の学習には下頭頂小葉が,トップダウン判断時には7野・楔前部等が重要な役割を果たすことを確認した.さらに,クロスモーダルなトップダウン処理を明らかにする実験を行ない,下頭頂小葉(BA40)で獲得された物体の触覚記憶情報が視覚形状判断時には外側後頭野(LOC)で想起され,紡錘状回で獲得された物体の視覚記憶情報は触覚形状判断時には体性感覚野で想起される可能性を示した.また,頭頂野の7野・楔前部ではマルチモーダルなイメージ生成が行なわれる可能性が示唆された.これらの実験結果をもとに,異種感覚統合の脳機能モデルを構築した.
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