研究概要 |
2つの異なる波長のレーザー光を走査トンネル顕微鏡(STM)の探針と試料間のギャップに照射すると局所的に差周波光が発生する。その発生原理を解明することによって,ナノスケールの物質の同定を室温においても可能にする新しい顕微分光手法=差周波励起ナノスペクトロスコピー=の適用条件を明らかにすることを目的とし,今年度は次の実験を行った。 (1)光整流電流の検出による非線形光学応答の起源解明 差周波電流と同時に発生するはずの光整流電流を検出することにより,光整流電流の大きくなる条件を探索し,非線形光学応答の起源を調べた。光変調電流には光整流電流のほかに光熱膨張効果による余剰信号が存在するので,後者を抑制するために一作年度開発した偏光変調法を用いたうえで,後者の信号成分の有無を判定するために探針一試料距離を変調したときに表れる信号と光変調信号のゆらぎの時間的相関を観測した。その結果,,探針一試料間距離の近いとぎに限って光整流電流と推定される信号が一時的に桁違いに大きくなる状態が現れること,カーボンナノチューブ(CNT)探針を用いると光熱膨張によらない信号が強くなること,が分かった。信号のゆらぎが大きいことから,差周波分光スペクトルを再現性よく測定するには,昨年度開発した波長掃引を必要としないフーリエ分光方式の適用が有利との見通しを得た。 (2)探針用単層カーボンナノチューブ(SWNT)の電流注入による欠陥生成 上記に述べたようにCNT探針が差周波発生に有利となる可能性があることが分かったが,いっぽうSWNTに電流注入すると欠陥生成が起こることが懸念された。金基板上に散布した半導体SWNT試料に対してSTMの探針から電子,正孔を注入すると,バイアス極性によって異なる閾値電圧で欠陥がSWNTに導入されることを確かめた。金属SWNTで同様の効果が起こらないかどうか,引き続き検討中である。
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