本研究は、代表者らが高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設・Advanced Ring (PF-AR)において整備を進めている「ピコ秒分解X線回折法に基づく分子動画撮影装置」を生体分子解析用に拡張し、「タンパク質分子の光誘起ピコ秒ダイナミクスのオングストロームオーダー分子動画撮影装置」の開発とその利用研究を推進することを目的としている。 本年度は、平成17年度の結果を踏まえて更なる装置開発を行い、またいくつかのタンパク質結晶に対して時間分解X線回折測定法の適用を試みた。装置開発については、1kHz繰り返しのポンプ-プローブ実験装置に加えて、1kHzのパルスを1-10Hzに間引くためのシャッター系の開発を行った。これにより、繰り返しの遅い光反応系にも対応することが可能となり、当初予定していた装置開発をすべて完了した。 また利用研究としては、シカゴ大学のグループとの共同研究で、二量体ヘモグロビンのピコ秒分解X線結晶構造解析を開始した。この二量体ヘモグロビンは、一般的な四量体ヘモグロビンとは4次構造が異なるが、酸素などの配位子結合時に僅かながら協同性を示す。また結晶中においても配位子結合時に4次構造転移が起こることが知られており、配位子の解離、再結合の際にどのようなメカニズムで構造転移が引き起こされるのかに興味が持たれている。測定は1Hzの繰り返しで行い、いくつかの時系列の時間分解回折データが得られた。現在、光励起後サブナノ秒オーダーの構造転移の解析を進めている。また、バクテリアの光合成反応中心結晶については、これまでに報告されている分解能を上回る、1.8Å分解能の回折データを得ることに成功した。現在構造精密化を進めるとともに、引き続き光誘起構造変化を観測するための条件検索を進めている。
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