研究概要 |
昨年度DNAを抽出した系統のうち約半数の210系統について,マイクロサテライト座を含む葉緑体の20領域について塩基配列を読み取り,変異を調査した。その結果,全体が10のグループに分かれ,多くの系統がそのうちの3つに属した。また3つの主要グループに属する系統の分布域には違いがあることが,明らかになった。現在,残りの系統について変異解析を進めているところである。またコムギ・エギロプス属の他の種でも,同様な解析を行いこの手法が属内で広く利用できることを確認した。 また神戸での,昨秋から今春にかけての栽培実験で,出穂開花時期に幅広い変異が認められた。その原因として栽培種であるパンコムギと同様に、春化要求性と日長感応性に多様性があることが期待される。そこで今年度はタルポコムギの春化要求性と日長感応性について約100系統に絞り込んで比較した。また、パンコムギやオオムギでそれぞれの形質の主働遺伝子であることがわかっているVrn-D1座とPpd-D1座のタルポコムギゲノムでの塩基配列を、複数の系統を用いて決定した。 その結果、タルポコムギでは春播き性パンコムギと同様にVrn-D1座の第1イントロンに大きな欠失を持ち、春化要求性を失っている系統がパキスタン及びアフガニスタンの系統に認められた。しかし、圃場における出穂開花の多様性をこの春化要求性の有無で説明することはできなかった。一方、日長感応性についても約20系統のタルポコムギを用いて調べたところ、日長感応性が低下している系統がタジキスタン、アフガニスタン、パキスタンにいくつか認められたが,エキソン及びイントロン領域で日長感応性の差異を説明できる変異は認められなかった。今後様々な条件下で,二つの遺伝子の発現量を比較し,開花調節のメカニズムを解明する予定である。
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