最終年度は、韓国と日本での補充調査のほか、有数の移住労働者送り出し国であり、日本でも看護師と介護福祉士候補生の受け入れが開始したインドネシアで調査を実施した。現地では、関連省庁、職業関連団体、労働者を支援するNGO等でインタビュー調査を行った。その結果、以下のような傾向がつかめた。 1. インドネシアは1979年以降、目標数を定めて海外雇用の拡大を推進し、近年ではフィリピンに倣って、海外雇用行政を整備しているが、省庁間、あるいは中央/地方間で意思疎通が必ずしも十分ではなく、仲介業者をはじめ「移住労働産業」の影響力が強い。 2. 1.を背景として、移住労働者の7割から8割を占める女性(多くは家事労働者)が仲介業者に前借金を負わされ、就労先でも賃金未払い、虐待等の劣悪な労働条件のもとに置かれる傾向にある。 3. 経済連携協定による日本への派遣は、「専門職」でもあることから、これを機に現在の「不熟練労働」中心の海外雇用を転換できるのではないかとの期待が担当省庁にはある。だが、その可能性は不透明である。 4. 看護師は広く知られた職種であるのに対して、高齢者介護の概念は一般には知られていない。 5. 看護職は女性職のイメージが強い職種だが、海外就労という文脈ではこの職に異なった価値が付与され、送り出し側では男性の進出が高まる傾向がある。 インドネシアの海外雇用政策は多くの面でフィリピンとの共通点をもつが、政治構造や政治文化の違いも際だち、とくに仲介業者の影響力の強さが注目される。再生産労働を担う女性移住労働者の人権保障という点で受け入れ国が果たすべき役割も大きく、送り出し、受け入れ双方で政策的課題を共有していく必要がある。 このほか、4年間の調査研究の当面のまとめとして報告書『アジアにおける再生産領域のグローバル化とジェンダー再配置』(総頁数312)を作成した。
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