研究課題
本年度は、法隆寺献納宝物「聖徳太子絵伝」全10面のうち、主に第3面と第4面を調査対象とした。肉眼による原本の詳細な調査を、研究分担者とともに3度(東京国立博物館法隆寺献納宝物特別調査1回を含む)にわたって入念に行った。図様の確認と場面比定は、前年度に調査した法隆寺東院絵殿に現在はめ込まれている吉村宗圭の模本、および、他の聖徳太子絵伝の図版との比較を参考に、過去の研究を検証しながら行った。合わせて、画面各所に書き込まれた銘文の翻刻と出典との異同の確認を行った。各面の全図と15分割の部分図をカラーポジフィルムで撮影の上、紙焼きし、実査の際の助けとした。高精細デジタル撮影も引き続き行った。前年度に引き続き、昭和40年代の修理時に撮影したX線フィルム(東京文化財研究所保管)をスキャニングし、DVDに収録する事業を完了した。収録したフィルムは計399枚、DVDは16枚におよぶ。これは下地からはずした状態で撮ったもので、現在では撮影不可能な画像である。当初の図様を技法的に判断する拠り所とするため、比較的制作年代の近い東寺伝来の「山水屏風」(京都国立博物館保管)を、研究分担者とともに京都国立博物館において詳細に調査した。図様の確認のために、江戸時代の模本も合わせて調査した。過去の複数回の修理による補絹は予想以上に複雑で、綾織の部分も1種類ではないため、当初の立涌文綾の残存状況を明らかにするために、比較的保存の良好な第6面を精査し、立涌文の基本パターンの作成を試みた。