研究概要 |
今年度は,本研究課題の初年度ということを踏まえ研究計画は推進され,次のような優れた研究成果が挙げられた. 大仁田は,ケーラー多様体のラグランジュ部分多様体のハミルトン安定性に関して,従来の結果を大いに拡張して,「単連結完備な複素空間形(複素ユークリッド空間,複素射影空間,複素双曲空間)に埋め込まれた第2基本形式が平行なコンパクトなラグランジュ部分多様体はハミルトン安定である」という結果が得た.また,SU(2)-軌道として得られる3次元複素射影空間のコンパクトな極小ラグランジュ部分多様体でハミルトン安定だが,第2基本形式が平行でない例を見つけた.スペシャルラグランジュ部分多様体の変形・モジュライに関するJoyce, Haskinsらの研究において,安定なスペシャルラグランジュ錐の例は,3次元のHarvey-Lawsonスペシャルラグランジュ錐しか知られていなかったが,高次元において,標準的に極小ルジャンドレ部分多様体として埋め込まれた階数2のコンパクト既約対称空間SU(3)/SO(3),SU(3),SU(6)/Sp(3),E_6/F_{4}上のスペシャルラグランジュ錐は,Joyceの意味で安定かつ剛性を持つことを示した.大仁田は,7月に北京・清華大学に滞在し,Ma Huiとの共同研究を開始し,まず等質等径超曲面のガウス写像の像として得られる複素2次超曲面(=R^{n+2}の向き付けられた2次元線型部分空間からなる実グラスマン多様体)のコンパクト極小ラグランジュ部分多様体のハミルトン安定を研究し,ハミルトン安定な新しい例を見つけた.また,入江も大域的なハミルトン最小性や一意性に関して注目すべき結果を得ている.研究支援者の野田は,非ケーラー複素曲面上の調和葉層を複素葉層の観点から研究を進め,幾つも新しい結果を得て発表講演している. また,可積分系による曲面・部分多様体や調和写像の研究は,本研究課題の重用項目であるが,大仁田は安藤,宇田川,谷口と研究協力者の乙藤(日大工)らを集め,可積分系によるWillmore予想の研究に取り組むチームをスタートさせ,12月末に大阪市立大学数学研究所の研究環境を利用して最小の検討会を持ち,大変有益であった.随時,刺激的な情報交換を行っており,今後の活動や進展が期待される.次年度の7月には数理研において,この研究の検討報告を行うことを目標に研究に取り組んでいる. 無限次元部分多様体の研究に関しては,小池は,着実に非コンパクト型対称空間の複素等焦部分多様体やアンチケーラーヒルベルト空間の無限次元等径部分多様体の研究を進めており,来日中ケルン大学のGudlaugur Thorbergsson教授から大変高い評価を受け,今後の研究に関しても多くの示唆を受けた. 唐津での第1回日中幾何学研究集会に中国・復旦大学のXin Yuanlong教授を招聘して,部分多様体の平均曲率流による研究に関して講演をしてもらい,本研究課題に対して有益な専門的知識の提供となった.
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