研究概要 |
第2年度である本年は,超短レーザーパルス誘起スピン偏極に取り組んだ。ここで対象としたスピンは中性Sr原子の光イオン化によって生成した価電子のスピンである。ナノ秒レーザーのスキームと同じく,レーザーアブレーションによって発生したSr原子ガスにナノ秒レーザーを照射して励起し,その後,フェムト秒のポンプパルスで5s6d 3D_1,3D_2をコヒーレントに励起した。可変時間遅延の後,フェムト秒のプローブパルスを照射しイオン化させる。イオン化によって生成した光イオンのスピン偏極度は右/左円偏光したナノ秒のイオン検出レーザーによって誘起されたレーザー誘起蛍光強度比から測定した。その結果,光イオンのスピン偏極度は約0%から70%までの間を6.7ピコ秒の時間周期で変動していることがわかった。しかしながら,現状ではS/N比が余り良くないデータであるため,装置や計測系の最適化によりデータの質の向上をさせることが理論と比較する上でも重要である。 理論については実験に先立ち,核スピン偏極を実現するスキームを独自に考案し,解析を行った。その結果,2〜3kV/cmの静電場を原子に印加することにより,数ナノ秒から数10ナノ秒という,従来知られている光学的なスピン偏極手法よりも3桁ほど短い時間スケールで高偏極を実現できることがわかった。達成偏極度は核スピン1/2のアルカリ土類金属原子については約90%,核スピン3/2のアルカリ土類金属原子については60%であった。
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