研究概要 |
量子ドットの近藤状態が,特定の干渉計の中で干渉を生じる際に起こるFano近藤効果を,T結合型の量子ドットおよびABリング中に量子ドットを埋め込んだ系において観測した.T結合型の量子ドットにおいては,特定の干渉パラメーターにおいて,近藤状態での位相シフトがπ/2にロックされていることを検証した.ABリングの系においては,磁場によって干渉パラメーターを変化させて,あらゆるパラメーターの領域でπ/2へのロックが生じていることを確認した. これは,AB位相のゲート電圧変化にも現れ,最も簡単なFano近藤効果のモデルからは考えられないことであった.この問題を解決するため,慶応大江藤教授との共同研究で,エッジチャネルが生じている際のFano近藤効果のモデル計算を行い,実験結果と非常に良く一致する結果を得ることができた.これにより,2端子素子でも,条件によってはあたかも理想的な2重スリット実験であるかのような結果が得られることが明らかになった. この「2端子素子においてAB位相が連続的に動かない」現象は,オンサガー相反性の帰結として理解されるが,一般にこれを「連続的な動き」に変えるには,多チャンネルの効果が必要である.テルアビブ大学Aharony, Entin両教授との共同研究で,このような多チャンネル系をモデル化し,実際にそのようなAB位相の動きが生じること,実験をよく説明することを実証した. T結合型の量子ドットにおいて,電子数ゼロ状態まで量子細線とドットとの結合を有限に保って実験をすることに成功した.電子数変化の際に生じるFano共鳴ピーク間隔を測定することで,量子ドットの電子状態が調和振動子の殻構造を持っていることを確認した.これは,量子細線の伝導度が高い領域でのみ生じ,これは細線の量子化モードとドットのモードマッチングの効果によるものと考えられる.
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