研究概要 |
異種の光合成細菌から調製したLH2及びRC-LH1複合体を卵黄由来のフォスファチジルコリン脂質2重膜に再構築した人工光合成膜の原子間力顕微鏡観察に成功し,単一の人工光合成膜の局所構造の同定とその顕微分光測定を行う準備が完全に整備できた。本研究の目標である人工光合成色素蛋白超分子配列の機能統御を達成するための最終段階に到達できた。 超高速コヒーレント分光計測に関しては,光合成色素カロテノイドおよび光合成アンテナ系色素蛋白複合体に関する研究で顕著な成果を得た。β-カロテン同族体のサブ20フェムト秒過渡回折(TG)信号測定と測定結果の理論解析を達成し,基底状態に結合する分子振動の位相緩和が,熱浴からの摂動によって引き起こされる事を明らかにした。各々の分子振動モードごとの位相緩和寿命を決定した。共役鎖長の短いカロテノイド分子では,C=C二重結合伸縮振動が主なエネルギー散逸のチャンネルとなっているのに対して,共役鎖長の長いカロテノイド分子では,C-C単結合伸縮やC-Me変角振動などの他の振動モードもエネルギー散逸チャンネルとして寄与している事を明らかにした。紅色光合成細菌Rba.sphaeroides2.4.1から調製した光合成膜,LH2アンテナ色素蛋白複合体,主成分カロテノイド(スフェロイデン)のTG信号測定を行った。カロテノイド分子に由来するコヒーレント分子振動の減衰時間が,これら3つの試料で殆ど変わらない事を見出した。この結果は,光合成アンテナの励起エネルギー伝達が非常に高効率である事を支持している。理論モデル計算を行ったところ,実験結果をよく再現することが分かった。
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