研究課題
基盤研究(A)
2004年梅雨期の沖縄において偏波レーダとラジオゾンデを用いたメソスケール降水システムの観測および数分ごとに採取した降水同位体組成の分析を行った。水蒸気の起源が同一であっても、降水の酸素同立体組成はイベント間で大きく異なる結果が得られた。降水形態(対流性降水・層状性降水)が同位体組成に大きく関わるとともに、対流性降水にあっては、対流発生前の対流圏中層の乾燥度が大きく影響することが明らかとなった。イベント内の同位体組成の短時間変動からは、対流システムの発達段階ごとに酸素同位体組成が変化していることがわかった。対流システムの発達期には同位体組成が徐々に低くなる一方、対流システムの衰退期には高くなる傾向を示すことから、大気下層での蒸発の影響が無視できないことがわかった。雲底下における雨滴蒸発に伴う同位体組成の変化を定量的に議論するために、雲底下における「雨滴-水蒸気間の粒径別同位体交換モデル」を開発した。感度実験の結果、小粒径・低相対湿度ほど同位体比の変化量が大きく、粒径別に降水量で重み付けした平均(バルク)降水同位体比に対し、相対湿度が大きく影響を与えることがわかった。新たに開発した雨滴粒径別同位体組成分析法により、モデル計算から予想される粒径別の同位体組成の変化を観測によって確認した。名古屋大学キャンパス内で2007年5月、9月、12月の三回の降水イベントにおける観測結果は、いずれも小粒径雨滴が水素・酸素同位体組成ともにより高い同位体組成を示した。以上により、降水の安定同位体組成の変動を論じる際には、従来の水蒸気の起源に関する議論だけではなく、降水形態による違いや雲底下における蒸発の影響を考慮する必要があることが明らかになった。
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